小説のお便り

日本国内で出版されている様々な小説たちを紹介するブログです

アンデルセン『絵のない絵本』

おかしなもの!胸が熱くじーんとしてくると、まるで手や口は金縛りにあったよう、胸のうちを描き表したり言い表したりできないもの。ところでわたしは絵かき、それをしてくれるのは目。それをよしとしてくれたのはみなさん、わたしのスケッチや画板をみてくれた人々。

わたしは貧乏書生、せせこましい路地の一つに侘住(わびず)まい。でも光には事欠かず。何しろ高みにあって、屋根という屋根を見下ろしているのだもの。この街にやってきた最初のころ、ほんとに息がつまりそうで寂しくて。森や緑の丘のうねりにかわって、空の果てまで灰色の煙突ばかり。友だちひとりなく、挨拶をしてくれる見知った顔ひとつなく。

 

 

絵のない絵本 (新潮文庫)

絵のない絵本 (新潮文庫)

 

 

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方針について

本を紹介するにあたって、以下の二つのことを基本的な方針とします。

1.本の冒頭文を載せる
本は冒頭文が何よりも大切です。夏目漱石の『吾輩は猫である』が有名なのは“吾輩(わがはい)は猫である。名前はまだない。”という文が人を惹きつけるからであり、川端康成の小説が美しいとされているのは、『雪国』の“国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。”という文章から情景がまざまざと思い浮かべられるからです。そして、本を選ぶ時も大体は冒頭を読んで決める人が多いと思います。ただ物語を紹介するだけで、その本を読んでもらえると考えるのは独善的な考えであり、読む側にしてみればギャンブルをするようなものです。そしてその賭けに負けると、本を読むという行為が嫌な経験になってしまうと思います。そうなってしまわないためにも、本の魅力を知ってもらうためにも、私は冒頭文をまずはじめに載せようと思います。


2.全て合わせて1,200文字以内に収める
日本人の平均的な読書スピードは、毎分400〜600字程度だとされています。そして読書スピードがどのようなものであろうと、長い文章というのは本腰を入れて「読むぞ!」と思わない限りとても面倒なことです。ですので、全て含めて3分程度で読み切れる程度の記事を書くことを心がけます。また、本を紹介するためにその紹介文を長々と書くのは本末転倒なことだと思いますし、それはとても無駄なことだと思います。

このブログを始めるきっかけ

私はいま、大学四年生です。就活というレースに負け続けて、いわゆる普通の道を、今のところは歩むことができなくなりそうな人間です。人に誇れる素晴らしいエピソードなんてないし、何か特別なスキルがあるわけでもありません。ただ、本は人一倍読んできました。様々な文学に触れ、その面白さもわかるようになってきました。そうした中で今わたしに出来ることは何だろうと考えると、人に本というものの良さを伝えることだと考えました。

今、本を読む人というのは娯楽の多様化によって段々と減ってきています。小説なんて読まないという人もたくさんいるでしょう。私はそうした人たちに向けて、小説の素晴らしさを伝えていきたいのです。人と繋がることを強制される世の中で、唯一その絶え間ない流れから逃れられるのが、小説です。不思議な世界に身を置き、辛い世界から逃れるいいきっかけを小説は与えてくれます。少ない時間ではありますが、それは間違いなく癒しになるはずです。その癒しを、小説を通して得てもらえればと私は思っています。